時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

年金基金のESG投資のリスク

 本日の「ダイヤモンド・オンライン」によりますと、「世界最大の年金基金であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も、2017年に1兆円規模の「ESG投資」を開始し、今後、3兆円まで増やす予定となって」いるそうです。

 

 経済産業省によりますと、「ESG投資」とは、「従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことを指します。特に、年金基金など大きな資産を超長期で運用する機関投資家を中心に、企業経営のサステナビリティを評価するという概念が普及し、気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや、企業の新たな収益創出の機会(オポチュニティ)を評価するベンチマークとして、国連持続可能な開発目標(SDGs)と合わせて注目されて」いる投資であるそうです。

 

 経済的な基準だけではなく、環境対策や社会的責任、ガバナンス(企業としての倫理性)といった基準も踏まえて企業を評価する投資ということになりますと、聞こえがよく、優良投資先のように見えますが、リスクが無いわけではなさそうです。

 

 その理由は、まず、第一に、投資先の選定におきまして最も重要な財務情報が軽視される可能性があることを指摘することができます。すなわち、環境対策や社会的責任を評価基準としてしまうあまりに、財務状況の悪い企業に投資してしまい、株価の下落によって損益が出てしまう可能性があるということになります。

 

 第二に、環境に優しい企業となりますと、太陽光発電風力発電などを行う多種雑多な小規模な発電関連企業などへの投資とうことになります。しかし、電力供給は、やはり廉価で安定的な供給が望ましいことになりますので、太陽光発電風力発電関連企業は、将来、淘汰されてしまう可能性があるのです。

 

 第三に、社会的責任とガバナンス(企業としての倫理性)の高い企業ほど、倒産する可能性が高いという問題があります。一昨日、倒産した米国の大手医薬品メーカーは、社会的責任とガバナンス(企業としての倫理性)が高かったからこそ、倒産したと言うことができます。すなわち、鎮痛剤の「オピオイド」を製造してきたパーデュー・ファーマは、2千件を越える集団訴訟によって一兆円を越える和解金の調達を迫られ、さらに、地方自治体も、オピオイドの中毒・過剰摂取対策のために投じてきた多額の予算の返還を求めて同社を訴えたことから、9月15日に連邦破産法11条の適用を申請しました。「オピオイド」の使用において被害者が出た理由は、麻薬の替りとして「オピオイド」を常習する人があったことにあり、自己責任であったにもかかわらず、なぜか、パーデュー・ファーマは、社会的責任ということで、和解金の支払いに応じてしまったのです(「オピオイド」問題につきましては、倉西雅子のgoogleブログ『万国時事周覧』をご参照ください)。ジョンソンアンドジョンソンも社会的責任とガバナンス(企業としての倫理性)の高い企業と評価されている一方で、倒産の危機にあるそうです。

 

 このような点を踏まえますと、「ESG投資」は、むしろリスクが高いと言うことができるのです。“消えた年金”とならないために、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、「ESG投資」の増額を見直すべきではないか、と考えられるのです。

 

(続く)