時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

北方領土-ロシアには領有の正当性がない

 安倍首相の訪問を受けて、ロシアのプーチン大統領が、北方領土について面積等分を提案したとも報じられています。ネット上では、この案に支持する意見も散見されますが、ロシアとの交渉妥結を急いではならないと思うのです。

 日本国には、(1)北方4島、(2)ウルップ以北の千島列島、並びに、(3)南樺太に関して、ロシアと領土画定交渉を行う正当な根拠があります。そして、(1)(2)(3)は、それぞれ、日本領となった経緯が違っています。(1)は、江戸期以来の固有の領土、(2)は、千島樺太交換条約(1875年)で平和裏に編入した領土、(3)は、日露戦争ポーツマス条約(1905年)によって獲得した領土です。(1)のみならず、(2)や(3)も、領土画定交渉の対象となる理由は、サンフランシスコ講和条約には、千島列島と南樺太は放棄されるとありつつも、当時のソ連邦はこの条約に加盟していませんし、ソ連に割譲されるとも一言も書いていないからです。つまり、国際法上は、領土未確定地なのです。連合国の大西洋憲章カイロ宣言等の不拡大方針とに従えば、(1)と(2)は、武力で併合した領土ではありませんので、日本領として確定されるべきものです。一方、ロシアには、これらの領土を領有する正当な権利はあるのでしょうか。現在の占領状態は、日ソ中立条約の一方的破棄と休戦協定後の軍事侵攻…に基づくものであり、これらの行為は、国際法上の違法行為とみなされています。ロシアが法的根拠としているヤルタ協定も密約です。そして、講和条約において”千島列島”と記されながら、アメリカを始めとした講和条約の当事国の多くは、固有の領土であった(1)は含まれないとする見解を示しています。このことは、ロシアの(1)領有は、国際的には承認されないことを意味しています。日本国もまた、(1)は、講和条約に記された”千島列島”には、含まれないとする立場にあります(つまり、放棄していない…)。

 以上に大まかに整理してみましたが、連合国の一員でありながら、ソ連邦は、バルト三国を併合するなど、混乱に乗じて、周辺諸国に対して侵略行為を働きました。(1)と(2)もまた、ソ連邦に侵略された領土なのです。この点に鑑みますと、サンフランシスコ講和条約に、”千島列島”の文字があることは痛恨の極みなのですが、対ロの法的効果はなく、また、他国の領土の武力併合は、国際法上の強行法規として禁じられた行為なのですから、対ロ交渉では、国際司法裁判所への共同付託や対ロの租借地化の提案を含め、最低限、(1)の領有権を譲ってはならないと思うのです。

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