時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

狗奴国の成立 ―景行天皇の筑紫遠征

 今日は、古代・中世史研究家の倉西裕子が記事を書かせていただきます。前回は、男子王を立てるべきか、女子王を立てるべきかをめぐって、奴国から狗奴国が分かれた可能性について述べました。

 狗奴国が、九州中・南部の倭諸国を、武力でもって奴国から分離・帰順させ、盟主となった経緯は、『日本書紀』景行紀における景行天皇の九州親征のお話に、わずかながらも反映されているかもしれません。景行天皇は、九州遠征を行いますが、その被征服地は、九州中部・南部域で、ちょうど狗奴国の想定領域となります。記紀は、大和から遠征したとしていますが、奴国からの分離・独立を表現しているのかもしれません。

 記紀には、「国偲びの歌」という有名な歌があります。


   大和は 国のまほろば たたなずく、青垣山 こもれる 大和し うるわし

 
 この歌については、『古事記』は、日本武尊が、敗戦におよび、大和を偲んで詠ったとされています。しかし、『日本書紀』では、景行天皇が、日向において、戦勝を祝って詠ったとしています。

 日向は、狗奴国の本拠地と想定できる場所です。敗戦歌なのか、戦勝歌なのかという、記紀の見解の大きな違いは、後に統一国家を形成することになった3ヶ国が、過去においては戦争状態となっていたということを、語っているのかもしれません。記紀は、敢えて、見解を違えることで、混迷の2世紀史を伝えようとしたのでしょう。


(次回に続く)。