時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

アフリカ単一起源説の誤解釈問題

  今日も、古代・中世史研究家の倉西裕子が記事を書かせていただきます。NHKの『人類誕生』において、ネアンデルタール人H. neanderthalensisと「NHKの定義によるホモ・サピエンス(黒人種)」の2種類のヒト属しか登場しなため、現生人類Homo sapience sapienceの発生についての説明が矛盾に満ちたものとなっている理由の一つは、当該番組の制作者によるアフリカ単一起源説の解釈の如何にあると推測することができます。
 
現生する全ての人種を含む現生人類は、ヒト科ヒト亜科ヒト属のホモ・サピエンスのただ一種なのですが、そのホモ・サピエンスはアフリカで誕生し、その後世界中に伝播していったとするのがアフリカ単一起源説です。この説ですと、南ルートをとった集団がオーストラロイド、北ルートがモンゴロイド、西ルートがコーカソイド、非出アフリカがネグロイドということになるそうです。この説は、頭髪が縮れ毛であり、黒い肌を持ち、鼻が低くて広いといった特徴を持つ非出アフリカのネグロイドが、ヒトの祖先であるという解釈がもたらしていると言えるでしょう。NHKも、このような考えにもとづいて、ホモ・サピエンスを黒人種と見なしていることになります。
 
しかしながら、このようなアフリカ単一起源説をめぐっては、その移動先におきまして、黒人種が白人種のコーカソイドになったり、黒人種がモンゴロイドになったりといった変化は、短期間の間に本当に起こったのか、とうい疑問が提起できます。そもそも、ホモ・サピエンスと称されているヒト属は、ホモ・サピエンス・イダルトゥ H. s. idaltu とホモ・サピエンス・サピエンス H. s. sapiensの2種類のヒト属によって構成されておりますように、当初より様々なホモ・サピエンスがあり、たとえアフリカ大陸で発生していたとしましても、その特徴がネグロイドであるとは限らないことになります。現在、アフリカ大陸に生息しているサル類の中には、膚の色が必ずしも黒く無いものもあることによっても、この点は示唆されるでしょう。むしろ、アフリカ大陸の高温の気候に適応できるようなホモ・サピエンスのうちの一種(黒人種)のみが、アフリカ大陸に残ったのかもしれないのです。アフリカ単一起源説は、全世界の人種の同一起源を意味しているわけではないのです。
 
アフリカ単一起源説が誤解釈されてしまいますと、NHKの『人類誕生』のように、まったく奇妙な‘人類誕生史’が創造(想像?)されてしまうことになるのです。

 
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(続く)