時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

国民を”のっぺらぼう”にした法律

 ダイレクト・メールといったデータ化された個人情報に基づく迷惑行為に対応するために、平成15年に制定された「個人情報保護法」は、本来の目的を踏み越えて、日本の社会を変質させることになりました。どのように変えたかと申しますと、国民の一人一人を顔の分からない”のっぺらぼう”にしてしまったようなのです。

 この法律は、個人情報のデータを扱う事業者を対象としており、私的な人間関係に規制を加えたり、言論や表現の自由に制約を課すことを目的としたものではありませんでした。しかしながら、”個人情報保護”という名称自体が国民に大きな誤解を与え、あたかも、個人に関わる全ての情報は収集してはならない、とする内容を持つ法律として解釈されてしまったようなのです。この結果、人々は、他の人が何処の誰なのかも知らず、また、個人的な背景や生い立ちなども分かり難くなくなりました。つまり、個々の”人となり”を知る機会が著しく減少してしまったのです。こうして、日本の社会は、抽象化された人々が、表面的な人間関係で繋がりながら漂う表層的な社会に変わってしまったのです。

 個人情報保護の行き過ぎは、どうやら、社会の活力を削ぎ、国民が、生き生きとした人間社会を築くことを妨げてしまっているようです。この意味において、個人情報保護法は、より副作用のない内容に見直す必要がありましょう。”のっぺらぼう”にされた国民は、自らの本当の顔を取り戻さねばならないと思うのです。