時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

千葉法務大臣の行為は裁量権の逸脱

 千葉法務大臣が、中国残留孤児の親族と偽って入国した中国人姉妹の特別残留資格を出したことが、権力濫用か否か、議論となっているようです。この件については、「入国管理及び難民認定法」の第50条に、法務大臣の裁量を認める一文があることから、問題なしとする意見もあります。しかしながら、千葉法務大臣の行為は、裁量権の逸脱にあたるのではないかと思うのです。

(1)妥当な理由がない
 第1に、「入国管理及び難民認定法」の第50条4には、国外退去処分に対する異議申し立てが却下されても、”その他、法務大臣が特別に在留を許可すべき理由があると認めるとき”には、特別に許可を与えることができるとしています。しかしながら、姉妹の一人は成人に達しており、また、大学への通学がこれに当たるとも考えられず、違法行為を認めてまで特別に在留を認める理由が見当たりません。

(2)違法な入国
 本件は、中国在留孤児帰国事業を悪用した特に悪質なケースです。入国時に違法行為があったのですから、当然に、入国許可は始めから無効となります。国外退去処分に関心が集まっていますが、入国自体が不法でありますので、これを認めるとなりますと、明らかに違法行為の合法化による法秩序の破壊を意味します。

(3)最高裁判所での敗訴
 不法に入国した外国人に対して、出入国管理局が国外退去を命じ、その効力を最高裁判所が認めたことは、法治国家としては当然のことです。法務大臣裁量権が、司法判決を超えることができるのか、疑問なところです。

 出入国管理には、入国審査官から国外退去の判定を受けても、法務大臣に異議を申し立てることができるとされています。先の条文もこの文脈から理解すべきであり、容疑者から異議申し立てがあった場合に、それが不当な異議申し立てであったとしても、法務大臣は、特別な理由があれば、裁量権を行使できるとしているのです。つまり、行政機関のトップとして、入国審査官の判断を変えることはできても、司法機関である最高裁判所の判決を無視してもよいとは書いていません。また、法務大臣不法行為を合法化できることが前例となりますと、強制退去を命じられた不法入国者は、裁判に訴えるまでもなく、異議申し立てによって、法務大臣から許可を得られるようになります。これでは、出入国管理法は、”ざる法”となりましょう。この議論に決着をつけるために、法務大臣の特別在留許可の行為が裁量権の逸脱に当たるのか、行政裁判を起こすという方法もあります。

 法務大臣が、法の支配と権力分離を理解していませんと、国は乱れてしまいます。この事件を契機として、法務大臣裁量権に対して一定の歯止めをかけるよう、法改正を検討すべきではないかとも思うのです。

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