時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

陛下のお気持ち発表-象徴天皇とは

 本日午後三時より、天皇陛下による「お気持ち」が、ビデオを通して発表されました。事前に懸念されていたよりも、内容としては穏やかものでしたが、婉曲な表現ですので、解釈の幅が広がる余地もありそうです。

 近代化を急ぐ時代の要請を受けて、明治以来の天皇の地位は、必ずしも日本国の伝統の形をそのまま継承するものではありませんでした。こうした観点からも、天皇については、憲法改正が政治的議論の俎上に上るようになった今日、抜本的に考えてみる必要があるのですが、今般の天皇陛下の「お気持ち」から、以下の諸点が読み取れることができるのではないかと思うのです。

・少なくとも、平成30年までは退位しない。
・退位は、高齢の天皇のみに限る。
・未成年の天皇や何らかの重い病気となった天皇の場合には、退位ではなく摂政にしたい(この部分が実は、最も重要なのかもしれない…)。*9日の紙面掲載の全文を読み返しましたところ、この部分がどうも曖昧です。
崩御に際しての過度な喪は避けたい。
天皇は伝統の継承者である。
天皇は、国民に、特に弱い立場にある人々に、常に寄り添わなければならない(東宮家や皇室外交への牽制?)。

 あくまでも、解釈の一つに過ぎませんが、国民に語りかけるというよりも、象徴天皇としての心がけを、次世代の皇室に説いているようにも思われます。内外からの皇室の政治利用が危ぶまれる折、将来、天皇が国を傾けたり、あるいは、国民からの尊敬を失う事態が生じないように、「お気持ち」の表明を機に(外部的な圧力であったかもしれない…)、予め、象徴天皇のあり方を方向付けたとも解釈できます。

 また、以上に挙げた諸点は、江戸時代までの伝統的な天皇は、御簾のなかにあって、御所からは、ほとんど一歩も出ることなく、すなわち、高齢でも務まる存在であっただけに、’象徴天皇’という存在を、誰が、どのように解釈するのか、という問題をも投げかけているようにも思えるのです。

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