時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

‘移民の規制’は景気を支える

 本日も、古代・中世史研究家の倉西裕子が、記事を書かせていただきます。マスコミによる「保護主義絶対悪説」につきまして、今日は、マスコミによって保護主義政策と批判される‘米国政府による米国民の雇用の確保政策’と‘移民の規制’のうち、“移民の規制”は、マスコミが主張しておりますように、本当に”悪い政策”であるのか、否か、について考えてみることにします。
 
米国は、移民国家とされておりますが、建国当時の移民の多くは、イギリスを主としたヨーロッパからの移民であり、言語、教育水準、文化(キリスト教文化)のみならず、その統治能力やあらゆる分野における学術・技術レベルにおいて、ある程度の共通性を保持しておりました。また、マックス・ヴェバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』やサミュエル・スマイルズの格言「天は自らを助くる者を助く」に見られるような勤勉を尊ぶ精神性は、アメリカの社会、経済の両面における建国以降の急成長を支えたと言うことができます(ただし、特に、南部においては黒人奴隷の問題はありました)。移民の経済発展への貢献に対する肯定的な評価は、”アメリカン・ドリーム”として表現される進取の気性と起業家精神に富む時代にこそ、最も当て嵌まります。
 
では、なぜ、今般、移民の規制が主張されるようになっているのでしょうか。その理由の一つは、フロンティア喪失後に顕著となる多国籍企業と移民との結びつきにあるように思われます。何故ならば、今日の多国籍企業は、必ずしも”アメリカン・ドリーム”を目指してアメリカに渡ってくる人々を採用しているわけではないからです。否、労働コストのレベルが低い国において事業者が募集を行う事さえあります。移民は単なる労働力でしかなく、社会や文化的な共通性などお構いなく、労働コストの最小化を実現した経営者ほど、株主から高い評価を得ることができるからです。この結果、現在の移民は、一般の国民との間で職の奪い合いとなると共に、共通性の欠如と異文化の流入が社会の分裂要因として強く作用するに至るのです。
 
このような多国籍企業による‘人の移動の自由’をまったく野放し状態といたしますと、短期的には、確かに、多国籍企業の企業収益は上がるのでしょうが、果たして、長期的に見た場合、アメリカは、建国以来の活力を維持できるのでしょうか。甚だ、疑問なところなのです。
 
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(続く)