時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

移民問題は専門職にも及ぶ

 本日も、古代・中世史研究家の倉西裕子が、記事を書かせていただきます。昨日の記事では、一般労働者の問題を扱いましたが、本日は、高度人材にも及んでいる点を指摘したいと思います。
 

 先日、フランス人ジャーナリストによる一本の興味深いTVのドキュメンタリーが放送されていました。当ドキュメンタリーは、多国籍企業の多くが、エンジニアといった専門職についても、殆どすべてがアジア系などの外国人から採用している実態を明らかにしたものです。


 特に印象深かったのが、当ジャーナリストの採用担当者へのインタヴューの場面です。外国人エンジニアの採用率の高さについて、ジャーナリスト側が質問しますと、採用担当者は、”米国人エンジニアが不足しているからである”と弁明します。ところが、ジャーナリスト側では、米国において多くの高学歴のエンジニアが失業している実態を事前に調べており、”米国人エンジニアの高い失業率を知っているのか”と尋ねるのです。採用担当者は、何食わぬ顔で”知らなかった”と答えるのですが、採用担当であれば知らないはずもありません。

 
このドキュメンタリーから分かることは、多国籍企業の中には、意図的に外国から従業員を雇用している社も少なくないということです。その理由は、第一義的には人件費を抑えることにあるのでしょうが、他にも理由があるのかもしれません。いずれにしましても、短期的には、企業の収支状況は改善され、株価は上がり、確かに、‘人の移動の自由’を利用した多国籍企業の収益は上がることでしょう。こうして、‘バスに乗り遅れるな’とばかりに、米国内には、従業員の大部分が移民や外国人からなる多国籍企業が、その生産コストの低さと高い収益率によって林立するようになるのです。看板だけは米国企業ですが、その社内を見ますと、専門職から工場の従業員まで、その殆どが外国人という企業も珍しくなくなることでしょう。
 
こうして、職種の違いに拘わりなく、外国人社員が低い賃金で働かされる一方で、米国人自身は不採用となり、就業の機会は失われます。昨今の「米国社会における中間層の消滅と二極化現象」は、基本的には、このようなメカニズムによって発生し、アメリカ経済を衰退に向かわせていると考えられるのです。
 
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(続く)