時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

現在の”ユダヤ人”の反国家思想の由来とは?

 本日も、古代・中世史研究家の倉西裕子が、記事を書かせていただきます。よく現代の‘ユダヤ人’に対する一般的な評として聞かれるのは、「ユダヤ人はディアスポラによる離散の民であるから、国家に対する意識が低い」という意見であり、この点が、‘ユダヤ人’によって世界の国々が滅ぼされ、世界政府の樹立が計画されているという陰謀説に信憑性を与えていると言うことができます。
 
しかしながら、『聖書』「旧約聖書」をよく読んでみますと、先祖伝来のユダヤ人は、古代にあって、むしろ、国家、もしくは、人々によってつくられる組織体の構成方法やその在り方について深く考えていた人々であると推測することができます。先祖伝来のユダヤ人は、ヘブライ王国をイエルサレムに建国する数百年も前に、出エジプトthe Exodusを行った際に、「ヘブライ12(13)支部族」を構成し、移動性の”組織集団”をつくっております。その集団は、たとえ領土が無くとも、古代文明由来の強い秩序意識を有しており、モーゼは、「モーゼの十戒the Ten Commandments」を定め、人々が社会を構成する上で、守らなければならない基本的規律を示しております。さらに、「民数記」は、国民の数の掌握(国籍の決定)や国民の国家に対する役割・義務(兵役・納税)の如何も定めております。そして、領土を有するようになりますと、国王を置くべきか、それとも、置かないべきであるのかも、国民の意思によって決められております。すなわち、国民こそが国家を形成してゆくものである、という今日の民主主義国家の基本となるような考えが示されているのです。
 
このように考えますと、先の「ユダヤ人はディアスポラによる離散の民であるから、国家に対する意識が低い」という一般的なユダヤ人観は誤りであり、現在の‘ユダヤ人’の国家意識の低さは、先祖伝来のユダヤ人に起因するのではなく、むしろ後からユダヤ教に改宗したネオ・ユダヤ人が、アウトサイダー的な人々の集まりであったことに起因していると推測することができるのです。

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(続く)