時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

バビロニアのユダヤ教徒と遊牧民族の世界を繋ぐアジア貿易

 本日も、古代・中世史研究家の倉西裕子が、記事を書かせていただきます。1世紀以降、バビロニア地域(ユーフラティス川の中下流域)に移住して自治市や村をつくってコミュニティーを形成するようになっていた「ユダヤ教徒」たちは、先祖伝来の12(13)支族とアラブ系イドメア人であるネオ・ユダヤ人による混成グループであったと考えることができます。
 
バビロニアを選んだ理由として、先祖伝来の12(13)支族の祖であるアブラハムが、ユーフラティス川下流域のウルの出身であった点に求めることができるかもしれません。ユダヤ人といいますと、「バビロン捕囚」でもよく知られておりますように、バビロニアを異郷の地として認識しているように捉えられがちですが、そのもともとの出身地は、カルディアであり、ユーフラティス川の中下流域は、いわば故郷であったのです。故郷の地に移住したと言うことができるでしょう。
 
では、この地で、何を生業といていたのかといいますと、スタイン・ザルツStain Salts氏の『The Essential Talmud』によりますと、農業を中心としながらも、町や村の生活に必要とされるあらゆる職種に従事していたようです。しかしながら、交易、しかも、遠隔地貿易も重要な職業であったことは注目されます。すなわち、「It seems that the Jews maintained extensive commercial contacts with remote countries in Asia and Africa.  Important merchants were involved in the international silk trade with China,… (ユダヤ人たちは、アジアやアフリカの遠い国々との広域的な通商を維持していたようである。有力な商人たちは、中国との絹貿易に携わっていた…)」のです。
 
この点も、ガブリエル・ローナイ氏の『The Tartar Khan’s Englishman』に登場する謎の英国人、ロバートの問題を考える上で重要です。ロバートは、バビロニアユダヤ教徒コミュニティーの持つ通商ルートを通じて、遊牧民の世界へと誘われた可能性が高いのです。

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(続く)