時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

モンゴルの奴隷貿易と”ユダヤ人”の責任

 本日も、古代・中世史研究家の倉西裕子が、記事を書かせていただきます。モンゴルによる奴隷貿易をめぐっては、仲介業者にも注目する必要があるかもしれません。昨日、モンゴルによって奴隷化された人々は、主に、イスラム諸国に売られていった点を指摘いたしました。ガブリエル・ローナイ氏の『The Tartar Khan’sEnglishman』によると、その仲介業者は、ヴェネチアの商人であったそうです。
 
『東方見聞録』でよく知られるマルコ・ポーロヴェネチアの商人であり、ヴェネチアは、モンゴルとの間に太いパイプを持っていました。その背景として、ヴェネチアに居住していたユダヤ人たちの活動を挙げることができます。
 
3月18日本ブログにて述べましたように、モンゴル側に雇用され、その全権大使となっていたロバートmaster Robertは、元ユダヤ教徒(ネオ・ユダヤ人か)であったようです。そして、3月19日付本ブログにて、ロバートは、バビロニアユダヤ教徒コミュニティーの持つ通商ルートを通じてモンゴルに至り、このルートで雇用された可能性が高いことは指摘いたしました。スタイン・ザルツStain Salts氏の『The Essential Talmud』によりますと、1520年から1523年の間に、ヨーロッパで初めて、ユダヤ教の経典の『タルムード』が出版されたのも、ヴェネチアであったそうです。このことは、ヴェネチアにおけるユダヤ人の影響力が、いかに強かったかを示しております。
 
16世紀、ウィリアム・シェークスピアが、『ベニスの商人』において、借金のかたに、「1ポンドの人肉」を要求する、すなわち、生命を要求するヴェニス在住の無慈悲で野蛮なユダヤ教徒を登場させるようになった原因は、ユダヤ教徒たちがモンゴルとの間に接点を持っていることが当時のヨーロッパ中に知れ渡っており、特に、ヴェネチア在住のユダヤ教徒には、残酷非道なモンゴルのイメージが付きまとうようになっていたからなのかもしれません。
 
ユダヤ人は、先祖伝来のユダヤ人と後からユダヤ教に改宗したネオ・ユダヤ人によって構成されており、そしてまた、マスター・ロバートのようにユダヤ教からキリスト教に改宗した元ユダヤ人もおり、”ユダヤ人”と呼ばれる人々は一様ではありません。しかしながら、バトゥ・カーンのヨーロッパ蹂躙に協力することで、奴隷貿易を担ったヴェネチアエスカレートさせたマスター・ロバートの役割を踏まえますと、やはり世界大に広まったユダヤ・広域ネットワークには、大いに責任がある気がいたします。

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(続く)