時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

イスラム教国に売られていったヨーロッパの人々

本日も、古代・中世史研究家の倉西裕子が、記事を書かせていただきます。モンゴルの時代が、十字軍の時代でもあったことに、注目する人は少ないかもしれません。しかし、モンゴルのヨーロッパ征服事業と十字軍とは、関連しているようなのです。ガブリエル・ローナイ氏の『The Tartar Khan’sEnglishman』は、モンゴルの奴隷貿易が十字軍活動と関連していることを示唆しております。
 
モンゴルが、徴税システムを利用して集めた人々は、奴隷仲介業者(主に、ヴェネチアの商人)の手を通して、おもに、イスラム諸国へ売られました。では、なぜ、イスラム諸国では、奴隷が必要であったのでしょうか。『The Tartar Khan’sEnglishman』は、以下のように記しております。
 
――Contemporary Arab sourcesoffer a broader view of the scope and extent of slave trade, because theoutcome of Egypt’s internal power struggles and the fight against the crusadersdepended on the quality of Mongol slaves.  The Sultan Kalaun, for instance, is recordedas having bought 12,000 East European and Caucasian slaves from Batu Khan’shorde, while his son, an-Nassir, purchased an equal number.  According to the Arab writer Ibn Hadzhar, an-Nassir paid to Venetian marchants 47,000 silver dinars for their humancargoes in the space of a couple of years. (同時代のアラブ側史料は、エジプト国内の権力闘争や十字軍に対する戦闘の結果が、モンゴルからの奴隷の量によって左右されていたことを示している点において、奴隷貿易の範囲とその拡大に関する概観を提供している。例えば、スルタンのカラーンは、1,2000人の東ヨーロッパ人・コーカサス人の奴隷をバトゥ・カーンのもとから購入し、カラーンの息子のアン・ナサールも同数を購入していたと記録されている。アラブ人の著述家、イブン・ハルザールによれば、アン・ナサールは、ヴェネチアの商人に、数年間に47,000ディナール銀貨を、‘人間貨物’の代金として支払っている。)
 
すなわち、イスラム諸国は、モンゴルから奴隷を購入し、傭兵として用いていたのです。キリスト教側から見ますと、十字軍は、実質的には、イスラム国内で奴隷となっていたキリスト教徒と戦わざるをえなかったことにもなります。このような状況下では、十字軍の士気はかなり落ちた事でしょう。仮に、モンゴルが、キリスト教徒とキリスト教徒を戦わせ、しかも、自らは莫大な利益を得ることを意図して、占領地のキリスト教徒たちをイスラム諸国に奴隷として売り払っていたといたしますと、これもまた、悪魔の成せる技であると言えるでしょう。
 
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(続く)