時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

奴隷貿易が十字軍を停止させた?

 本日も、古代・中世史研究家の倉西裕子が、記事を書かせていただきます。3月25日付本ブログにて、モンゴルの征西によって征服された諸国民は、ヴェネチア商人によって奴隷化された点について述べました。

 当初においては、エジプトの奴隷市場で売買され、イスラム諸国に対する兵力供給源となりました。絶え間ない兵力の供給により結果、十字軍の遠征は泥沼化し、十字軍を長期化させた要因となったようです。しかしながら、その一方で、バトゥの遠征によりキリスト教徒が奴隷化されるに至りますと、こうの構図に変化が生じたようです。キリスト教側から見ますと、十字軍は、実質的には、イスラム国内で奴隷となっていたキリスト教徒と戦わざるをえくなるからです。

 こうした状況下では、十字軍の士気はかなり落ちたはずです。このことは、1270年のフランス国王ルイ9世によって結成された第7次十字軍を最後に、十字軍活動が停止に追い込まれたことと関連があるのかもしれません。

 
すなわち、ヴェネチア商人が、世界大の‘ユダヤ人’ネットワークを通して、モンゴルとの間に謂わば‘独占奴隷貿易契約’を実現させ、キリスト教徒を奴隷としてイスラム諸国に大量に売った結果、十字軍は、奴隷となっていたキリスト教徒と戦うことになってしまい、もはや意味をなさなくなってしまったようなのです。‘同士討ち’ということになりなり、ヨーロッパ諸国が十字軍に力を入れれば入れるほど、キリスト教徒が減少してゆく、という結果となってしまうからです。これに気付いたヨーロッパ諸国は、十字軍を停止した、ということになるでしょう。
 
十字軍活動の停止は、中近東地域の情勢に影響を与えるようになりました。1299年にアナトリアにて、1453年にコンスタンチノープルを陥落させ、東方キリスト教世界の中心であった東ローマ帝国を滅ぼすことになるオスマン・トルコが興ります。ヴェネチア商人を通してのモンゴルによる奴隷貿易は、イスラムの伸長という脅威をも作りだしたことになるのです。

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(続く)