時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

ヘロデ王による国民入れ替え政策

 本日も、古代・中世史研究家の倉西裕子が、記事を書かせていただきます。ヘロデ王による「モーゼの十戒」違反は、洗礼者ヨハネを亡き者にしたことに留まりません。イエス・キリストが出生した年、この年に生まれた男子が、将来、ヘロデ王を王位から降ろすとする預言を信じ、王位に固執したヘロデ王は、この年に出生した男子の新生児を皆殺しにしています(イエス・キリストは、エジプトに逃避して難を逃れます)。

 預言を信じてか否かはわかりませんが、ヘロデ王は、口実を設けて「ヘブライ12(13)支部族」、すなわち、正統的ユダヤ教徒の人数を減らそうとしたのでしょう。そして、減った人口の穴埋めに、イドメア人を改宗させてユダヤ教徒と成していったことは想像に難くありません。「モーゼの十戒」や戒律を遵守する「ヘブライ12(13)支部族」は、「モーゼの十戒」や戒律の違反者であるヘロデ王にとっては煙たい存在であり、ヘブライ王国の国民をアラブ化させることで、自らの地位の安泰を狙ったのでしょう。元祖「ネオ・ユダヤ人」はイドメア人であり、この時から、「ユダヤ人」と言った場合に、「ヘブライ12(13)支部族」以外の民族も含まれるようになったと言えます。
 
おそらく、ユダヤ史上におきまして、所謂‘国民に銃を向けた’君主は、ヘロデ王が初めてであったと推測することができます。フランス史上では、‘国民に銃を向けた’初めての王は、ナポレオンであったそうです。ヘロデ王は、アラブ系イドメア人という異邦人、ナポレオンもコルシカ出身者の異邦人であるという共通項があります。ユダヤ人のトップにアラブ人が立ち、徹底的な「ヘブライ12(13)支部族」絶滅政策を実施したことによって、「ヘブライ12(13)支部族」は、宗教的指導者は抹殺され、子孫も残すことも難しい、という大変な危機に襲われてしまったのです。
 
キリスト教の成立を考える場合、このような歴史的背景を無視することはできません。

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(続く)