時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

世襲制によるカルト化問題

 今日も、古代・中世史研究家の倉西裕子が記事を書かせていただきます。自己の利益のみの追求を是とする宗教と、人間によって構成される社会の健全さや安全が確保されて、始めて人間らしい人生を送ることができるという視点から、普遍的な禁止事項を定めた宗教という2種類の宗教があり、後者型が堕落した場合、前者型の宗教と何ら変わりのないカルト教となってしまう点を昨日指摘いたしました。
 
このような問題は、世襲制の問題についても同じことが言えるようです。才能、もしくは、人徳や品性のある立派な人物の子孫は、必ずしも、その先祖と同じような人物となるとは限らず、むしろ、正反対の人物となる場合があります。それは、現在の生物学によって明確でありますように、減数分裂が発生し、子は、父親の半分の遺伝子と母親の半分の遺伝子のみしか継承されえず、その他の遺伝子を受け継ぐことができないからです。すなわち、始祖として、たとえ高潔で立派な人物が擁立されても、世襲制では‘劣化’が生じてしまうのです。歴史を鑑みますと、世襲制によって暴君が登場し、国家が滅亡したり、圧政によって国民が苦しんだ例は、枚挙に遑ありません。
 
すなわち、偶然に起因する減数分裂の如何によって、先祖にその業績や善政をもたらしていた遺伝子を受け継いでいない子孫に対しては、その先祖と同じような業績や善政を期待することはできません。また、母親からの遺伝子が半分を占めることから、母親がその先祖と正反対の性格であった場合、減数分裂の如何によっては、むしろ、その先祖とは正反対の性格の人物が、その先祖の子孫を称するようになってしまうのです。世襲制によって、そのような子孫にまで、国民が崇敬を払わねばならないとなりますと、それはカルト教以外何ものでもないということになるでしょう。
 
こうして、代を重ねるごとに世襲制であることの意味を失う結果となるのですが、このような弊害は、古来より知られていたらしく、古代エジプト文明や古代の日本などの王室・皇室のメンバーが、配偶者を近親者に限った理由も、減数分裂による無意味化と暴君の登場を避ける狙いがあったと考えることができるでしょう。また、古代ギリシャ古代ローマにおいて民主主義制度がつくられたのも、こうした世襲制の弊害に気付き、より安全性の高い政治制度の構築を目指した結果であると言うことができます。
 

このように考えますと、殊、有能さを求められる為政者の選択に関しましては、世襲制よりも民主制度にもとづく選出の方が安全であると言えます。また、カルト化を防ぐため、国民の側からの王制廃止が制度化されている国もありますように、王室・皇室などの世襲制の機関に対しまして、無意味化や暴君化が発生した場合には速やかに廃止、もしくは、政治からの完全分離が望ましいということになります。


 

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(続く)