時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

新元号「令和」と『竹取物語』:『竹取物語』は貨幣発行権問題を扱う

今日も、古代・中世史研究家の倉西裕子が記事を書かせていただきます。新元号の「令和」が、『万葉集』から月、並びに、その記念切手のデザインと英経済紙『The Economist』の『2019年の世界The World in 2019』の表紙のデザインから富士山と関連していること、すなわち、「令和」の持つ月と富士山というキーワードは、『竹取物語』を想起させるかもしれません。
 
竹取物語』は、今日でもよく知られる日本最古の文学作品です。竹取の翁は、竹林の竹の節のなかに光り輝くかぐや姫を見つけたことによって、その周囲の竹から、次々に大量の金貨を発見することになり、またたくまに長者となります。並ぶもの無き美女に育ったかぐや姫に対して5人の貴公子、そして、最後に天皇が求婚いたします。しかしながら、ある年の8月15日の満月の晩に、かぐや姫は月の世界へと帰ってしまいます。その際に、かぐや姫は形見の品として、天皇に不老不死の薬を贈りますが、天皇は、かぐや姫のいない世の中では、生きている価値が無いと、富士山の山頂で、その薬を燃やしてしまう、というあら筋であると言えるでしょう。
 
この物語の歴史的背景につきましては、拙著『国宝・百済観音は誰なのか? 実在したモデルとその素顔』(小学館、2006年)で扱いましたが、5人の貴公子が、7世紀の持統朝(687~697年)に実在した高位高官をモデルとしていることに示唆されますように、『竹取物語』は、政治との関わりの強い、すなわち、歴史に題材を取って成立した文学作品であるようなのです(『源氏物語』で、紫式部もこの点を指摘しております)。すなわち、『竹取物語』は、実際に起こったことを文学作品として表現していた、ということになるのです。
 
では、どのようなことが、実際に起こっていたのでしょうか。それは、①竹取の翁が、大量の金貨を保有している点、②月は銀によって象徴されることから、月の世界の人であるかぐや姫は銀を象徴していること、③天皇も含め、時の朝廷の権力者たちが、こぞってかぐや姫を娶ろうとした点から推測されてくるかもしれません。すなわち、大量の金貨とかぐや姫を持つ竹取の翁は、貨幣の発行所、すなわち、金銀塊を貯蔵している所謂“中央銀行の地下倉庫”のような存在として朝廷から認識されたと考えられ、その“中央銀行の地下倉庫”を自らの権力の内に取り込もうとする権力者たちの動きが、数々の求婚譚として『竹取物語』において表現されたのではないか、と推測することができるのです。
 
貨幣発行権とその仕組みは複雑であり、金貨や銀貨、あるいは金本位制や銀本位制という希少金属との兌換性のある通貨が、世界の多くの国々におきましてニクソン政権時代まで主流でありました。すなわち、金や銀の価値を以って貨幣価値が保障されてきた歴史があるのです(偶然にか、世界最古の貨幣はメディアのギゲス王によるものですが、ギゲス王は、紀元前660年という日本書紀紀年法の紀元の年にその貨幣を発行しています)。
 
竹取の翁の保有する金貨と銀の象徴としてのかぐや姫は、まさに、“中央銀行の地下倉庫”として朝廷が貨幣経済を運営するに際して、必要とされていたと推測することができるでしょう。
 
天皇が、かぐや姫のいない世の中では、生きている価値が無いと、富士山の山頂で、不老不死の薬を燃やしてしまうという結末は、奈良時代の頃に実際にあった富士山の爆発のことであると一般的には解釈されております。古代ローマ時代におけるヴェスピオス火山の噴火によって埋もれたポンペイの遺跡が示唆しますように、火山の爆発は、終焉を意味する場合があります。世界の永続性の拒否、すなわち、終末論的結末が『竹取物語』の結末にはあると言えるでしょう。
 

しかしながら、記念切手や『2019年の世界TheWorld in 2019』の表紙のデザインに描かれた富士山が冠雪している点、すなわち、富士山の噴火は起こっていない点と、表紙デザインの月は、満月ではなく三日月である点は、あるいは、終末論とは別の展開が予想されていることを示唆しているのかもしれません。不安定ながらも流通するようになっているビットコインの問題など、貨幣経済システムの維持問題は、今日ますますその重要性を増しております。



英経済紙『The Economist』は、「令和」の時代には、貨幣経済危機は起こらないという予測を立てているのか、表紙デザインに含意されるその真意は図り知れませんが、貨幣経済システムの維持問題には、全世界の人々が大いに関心を払わねばならない時代が来ていると言えるのかもしれません。


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(続く)