時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

敗戦を克服した日本

 昭和20年8月15日、この暑い夏の一日は、日本人にとりまして忘れることのできない特別の日となりました。この日、日本国民は、第二次世界大戦を枢軸国側で戦った日本が、終にポツダム宣言を受け入れ、降伏を決意したことを知ることになったのです。こうして、5年以上に及んだ第二次世界大戦は、日本国の敗戦により幕を閉じることになりました。

 負け戦という現実を前に当時の日本人は、勝者である連合国に対して恨みに心を滾らせ、復讐を誓ったのでしょうか?

 おそらく、そうではなかったのでしょう。敗戦を受け入れた日本人の態度には、いくつかの理由があったように思われるのです。

 一つには、日本人には、滅びの美学を尊ぶ国民性があったことが挙げられるかもしれません。精根尽き果てるまで戦った結果ならば、それが、負け戦であろうとも、潔く散るべし、という心情です。古来、滅びゆくものに抱いた”もののあはれ”の情、あるいは、武士道に由来する”潔さ”は、現実に対する怒りや憎しみよりも、むしろ美の情緒に通じていたことになります。

 そうして、何よりも、戦後の日本の行方を方向づけたのは、昭和天皇終戦詔勅にあったように思うのです。”堪ヘ難キヲ堪ヘ 忍ヒ難キヲ忍ヒ 以テ萬世ノ為ニ 大平ヲ開カムト欲ス”この一言こそが、日本人をして、敗戦の痛手を心にとどめさせ、それを、戦後復興のエネルギーへと昇華させたのかもしれません。

 戦争には勝敗はつきものです。戦争に負けた我が国が再び未来に向けて歩みはじめようとした時、昭和天皇は、精神的な意味において、決定的な役割を果たされたのではないか、と思うのです。