時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

年金制度案に潜む哲学論争

 公的年金の制度設計は、社会保障に関する哲学の相違によって大きく違ってきます。その最大の対立軸は、セーフティーネットvs.ナショナル・ミニマムです。

 セーフティーネットの考え方は、経済力に欠けて自活できない人に限定して、公的な救いの手を差し伸べようとするものです。この考え方にあっては、年金ではなく生活保護政策こそが、国庫を財源としたセーフティーネットの役割を果たします。一方別会計の年金は、公権力を利用した、国民一般の相互扶助制度、あるいは、積立年金に近くなります。この制度では、納付と給付に権利・義務関係が成立しますので、加入者の年金の支給に対して制限などが設けられることはありません。

 一方、ナショナル・ミニマムの考え方に立つ場合には、公的年金は、国民全体の最低生活保障としての意味を持ちます。生活保護政策と年金は財源においても一体化し、納付と給付との間の権利・義務関係は曖昧となります。このため、年金を納めても必ずしも給付を受けられなくなったり、財政状況によっては給付額が増減したりする場合もあり得るのです。

 この哲学的な違いから各党の基礎年金に関する提案を評価してみますと、自民党案は、セーフティーネット型であり、民主党などの案は、ナショナル・ミニマム型であることがわかります。この論争を換言しますと、自由民主主義対社会民主主義と言えるかもしれません。