時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

政治と宗教は両立し難い

 政教分離の原則は、日本国憲法にも定められている原則ですが、政治と宗教を分離させたことには、それなりの理由があります。幾つもある理由の中で、本日は、政治と宗教がどうしても両立しない場合があることについて考えてみようと思います。

 政治と宗教は、ある部分においては、両立は可能です。福祉や社会秩序の維持を扱う領域では、宗教的な慈悲や救いの精神は、弱者救済や公序良俗の維持に貢献します。しかしながら、防衛や安全保障といった政策領域となりますと、両者は、途端に両立しなくなるのです。マックス・ウェーバーは、『職業としての政治家』という書物の中でこの問題を扱っていますが、いざ自国の存亡の危機ということになりますと、聖書に述べられた”山上の垂訓”は、戦争という現実とぶつかります。仏教にありましても、”殺生の禁止”や”無慾”の教えに忠実であろうとすれば、たとえ防衛戦争であろうとも戦うことはできません。これでは、政治家として、国家や国民に対して自らの責任を果たすことは、かなわなくなるのです。
 
 政教一致体制にあっては、こうした二律背反があり得ることは、双方にとって不幸なことなのです。政治は充分に自らに課せられた役割を果たすことができず、宗教もまた、現実の前に自らの信条や戒律を捨てざるを得なくなるかもしれないのですから。ここに、政治と宗教が、それぞれが担うべき守備範囲を分ける理由がありそうです。政教分離は、いらぬ混乱を避けるための智恵でもあるのです。