時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

市場経済を利用するしたたかな中国

 1989年、社会・共産主義国がドミノ倒しのように崩壊した時、主要な経済的要因は、硬直化した計画経済の行き詰りにある、と指摘されてきました。政経一致の共産主義にあっては、経済システムの失敗は、即、政治における体制崩壊をもたらすことになったのです。

 この失敗に学んでか、中国は、政治と経済の分離をすすめ、共産主義を、一党独裁を支えるためのイデオロギーとして、政治の分野のみに閉じ込めることにしました。その一方で、経済分野においては、改革開放路線を選択し、グローバル化する市場経済の中で、安い労働コストを武器に海外からの投資を呼び込むことに成功したのです。この戦略は見事にあたり、中国は、今では、BRICの一員として経済大国にのし上がることになりました。自由貿易市場経済の恩恵を最も享受している国が共産主義国家とは、何とも皮肉なことです。

 もちろん、私有制の廃止や国家の消滅を唱えた共産主義の論理からしますと(この主張自体が非現実的なのですが・・・)、今日の中国の状態は、原則からの逸脱以外の何ものでもないのですが、中国政府は、この奇妙な分離と一党独裁体制を、今後とも維持しようとするでしょう。そうして、我々は、したたかで鵺のような中国が、決して本心から市場主義を肯定するものでも、政治的な共産主義を放棄しもしないことに、充分、気をつけなくてはならないのです。ソ連に欠けていた経済力をも身につけた共産主義国家ほど、恐ろしいものはないのですから。