時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

小麦値上げは政府のため?

 農林水産省は、穀物市場における国際価格の値上がりを受けて、今年の4月より、小麦の国内製粉会社への売り渡し価格を30%値上げするそうです(日経朝刊)。この値上げは、昨年10月に続く二度目のようですが、もし、政府が、単純に値上がり分を上乗せしているとするならば、何とも無策であるように思うのです。

 そもそも、輸入穀物に対しては、国際競争力のない国内農家を保護するために、政府が、国境で価格調整を行っているはずです。つまり、輸入穀物の売り渡し価格を上げることで、内外価格差を縮めているのです。この仕組みでは、輸入穀物価格が上昇した場合、政府は、介入なくして内外価格差が縮まるのですから、自由貿易の観点からみれば、喜ぶべきことです。しかしながら、これは同時に、差額(安く買って高く売る)による政府収入の減少を意味するため、今回の値上げのように、政府は、歳入維持優先の政策、つまり、値上がり分の消費者転嫁を採ることになるのです。

 果たして、政府が、国民生活に直接影響する小麦価格の値上げに踏み切ることが、穀物価格の上昇に対応する妥当な政策であったのでしょうか。これは、消費者か農家かの選択なのかもしれませんが、どちらにとりましても、将来性の見えない場当たり的な政策のように思えてなりません。価格の据え置きを念頭に、国内生産の拡大や小麦生産の大規模化など、他の戦略的な政策を試みる価値はあるのではないでしょうか。