時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

国民の自由を無視した人権擁護法案

 人権擁護法案が、憲法21条に保障した表現の自由に違反することは、幾度となく指摘されてきているのですが、政界では、この憲法議論を無視して、法案提出に動き始めている言います。果たして、国民は、国会議員に対して、自らの自由や権利を侵害する法案の制定を委託したのでしょうか(少なくとも、最近の衆参の選挙とも争点とはなっていませんでした)。

 立法権が成立する歴史的な過程を見てみますと、初期のイギリス議会では、国民からの請願を受けてから、議員が法律の制定に取り掛かるという順序でした。これは、現在では、国民発案と呼ばれる手続きとして知られています。この順序ですと、議員の側が一方的に法律を国民に押し付けるという弊害はありません。しかしながら、現在では、議員の側にイニシャチブがあり、国民は、望まない法律の制定にNOが言えないのです。特に、一部の人々ではなく、国民全員に関わる一般的な法律の場合には、この弊害は、あまりに大きくなります。議員の方々は、常々”国民の皆さんのために”と連呼しながら、政治権力を、他人が嫌がることを押し付ける力とでも理解しているように見えてしまいます。

 議会の一方的な法の制定による国民の不利益を考えますと、国民の自由と権利に直接影響を与える法案については、国民投票制度を導入するか、あるいは、国政に国民発案を導入して、国民の大多数の賛成のある法案しか制定できなくするとか、何らかの工夫が必要となりそうです。人権の擁護には、他にも様々な方法がありながら、あえて、最も危険で最も憲法違反の可能性の高い方法を選択することはないのではないか、と思うのです。