時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

日銀と財務省との癒着人事?

 次期日銀総裁の人選をめぐっては、元財務次官であった武藤敏郎氏の名が挙がっており、民主党も候補者としては排除しない方針に転じたようです。この人事で問題となるのは、中央銀行の独立性を損なうこと、ならびに、財政政策と金融政策とでは、全く求められる専門知識や経験が違うのではないか、ということです。

 第一の中央銀行の独立性は、通貨価値を安定化させるためには、政府の介入があってはならない、とする趣旨から制度化されてきました。例えば、政府が巨額の財政赤字を抱える場合、中央銀行の利上げによって利払いが増えたり、デフォルトを起こさないために、中央銀行に低金利政策を維持を働きかけるこがあります。また、歴史的には、国債中央銀行による大量引き受けという手法もありました。人事を通して財政と金融が結びつくと、こうした政府の要望は、簡単に日銀の政策決定に反映されることになりましょう。そうして、このことは、日本の金融制度に対する内外の信頼性を損ねることになりかねません。

 第二に、金融政策と財政政策とでは、まったく異なる能力を要することです。財政政策は、税制を通して市場と部分的に関係してはいますが、金融政策の目的は、物価の安定を含めた通貨価値の維持であり、はるかに市場志向です。このため、財政部門の経験が金融部門において発揮できるとは限らず、能力や適性も、両者の間では互換性に乏しいのです。

 以上の二点を考えますと、元財務次官の方が、変化が激しい市場を相手にする金融にあって、日銀総裁として適任であるのか、いささか、疑問なところです。もし、適任と考えるならば、是非、同氏の実績を示して、国民が納得するように説明していただきたいと思うのです。