時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

胡主席訪日のキャンセルという切り札

 国際社会において、中国に対するチベット弾圧への非難が強まる中、本年5月に予定されている胡主席の訪日に関しては、今のところキャンセルの声は聞こえてきません。しかしながら、この訪日は、1992年の天皇訪中の前例を考えますと、アジアにとっても、国際社会にとっても、極めて危険なのではないか、と思うのです。 

 1989年6月、政治犯の釈放などの民主化を掲げて天安門広場に集まった学生および労働者に対して、人民解放軍が武力で弾圧するという事件が発生しました。自国の軍隊が自国民に銃口向けるとは、あるまじきことで、天安門事件は、国際社会からの激しい非難を浴び、各国は、中国に対する制裁の包囲網を築こうするのです。ところが、1992年に、中国からの招待を受ける形で天皇訪中が実現してしまい、この包囲網は、もろくも崩れ去ってしまうことになったのです。この出来事は、後々、天皇の政治利用として非難されますが、仮に、予定通りに胡主席が来日するとしますと、チベット問題で強まる国際社会の中国非難が緩和してしまい、結果として、チベット弾圧を容認することになりかねません。

 日本国政府には、北京オリンピックのボイコットという外交カードの他に、もう一つ、胡主席の訪日キャンセルという切り札があります。過去の過ちを繰り返さぬように、日本国政府は、この切り札をきるべきではないか、と思うのです。