時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

天皇の統合力の根源とは

 日本国憲法では、第一条において、天皇は、日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴であると定めています。憲法が述べるように、天皇に国民を統合する作用があるとすると、それは、何に由来しているのでしょうか。

 もし、憲法において、天皇位には、日本国民の中から抽選で選んだ人を就ける、と定めたとしたら、この人物に、国民統合の作用を期待することはできるでしょうか。おそらく、抽選制の天皇では、誰も、天皇性を維持する理由を見つけることはできませんし、ましてや、自然な気持ちで尊敬することもできなくなりましょう。天皇とは、2000年を超える長きにわたり、日本国の祭祀を掌ってきたことにこそ、国民を統合する力を持つと考えることができるのです。天皇の統合力の源泉とは、国民とともに歴史を歩んできた姿にあるのであって、伝統祭祀を抜きにした天皇は存在しえないのです(祭祀なき天皇は、もはや別ものであって、”天皇”ではなくなる・・・)。

 現在、天皇家の祭祀継承が問題となっているようですが、天皇の統合力の源泉に思い至りますと、天皇あるいは皇位の継承者が、個人的に、伝統祭祀以外の宗教を選択することはできないのではないか、と思うのです。かつて、イギリスでは、国王の宗派をめぐって名誉革命が発生しました(カトリックの国王を排除)。天皇の祭祀権は、法律には定められていませんが、天皇の統合力の源泉がこの古来の祭祀にある限り、天皇と伝統祭祀は分離することはできないと考えるのです。