時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

アジア経済・環境共同体とは?

 政府は、6月に発表予定の経済成長戦略において、アジア域内の物流の整備を柱とした「アジア経済・環境共同体」なる組織の構築を提案すると言います(日経本日付朝刊)。この提案には、幾つかの点で、優先順位に誤りがあるようにも思うのです。

 第一に、政治的な懸念が置き去りにされていることです。経済成長は、近年の中国の事例を見ても分かりますように、税収の増加に伴う軍事費の伸長を通して、地域内の軍事的緊張を高める方向に向かう可能性があります。アジアには、共産主義国や軍政の国家が残存しており、この状態で、経済強化をのみを先行させますと、安全保障上の重大な危機を迎えることになるかもしれません。

 第二に、この共同体の加盟国に、中国やビルマといった人権弾圧国が加わることは、自由主義国や民主主義国にとっては、忌々しき問題となります。また、北朝鮮が加盟申請を行った場合、承認するのでしょうか。さらには、この共同体に、台湾、チベット東トルキスタンが加盟を求めたとしたら、どのように対応するのでしょうか。人権や正当なる独立の主張よりも、経済を優先すべきとは思えません。

 第三に、経済成長には、インフラ整備も重要ですが、市場の法や制度の整備も欠かせません。むしろ、市場経済に充分に慣れてはいないアジア諸国の現状を考えますと、後者の方を優先して進める必要があるかもしれません。インフラ提供型は、利権化し、政治腐敗を招く要因にさえなります。

 第四に、この組織の名称に並んで掲げてある経済と環境でさえ、両立しない可能性があります。何故ならば、、環境を優先させるならば、経済成長にブレーキをかけなくてはならない状況も当然に予測され得るのです。つまり、アジアの経済成長は、環境を破壊し、温暖化ガス削減にも逆行するとする非難が起きてもおかしくないのです。

 これらの他にも、加盟条件や政策領域など、様々な疑問点が浮かぶのですが、将来に起こり得るシナリオをよく検討した上で提案を行いませんと、我が国のみならず、アジア全域を不安定化し、かえって迷惑をかけるかもしれないと思うのです。

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