時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

尖閣諸島―鄧小平発言の独り歩きに要注意

 昨日のテレビの報道番組を見ておりましたところ、尖閣諸島で発生した中国漁船の領海侵犯事件について、中国人の学者が、1978年の鄧小平発言を取り上げて、あたかも、それが、日中両国の政府間合意のように説明していました。おそらく、中国側のスポークスマンなのでしょうが、この発言は、日本国の国民に誤解を与える恐れがあります。

 鄧小平発言とは、1978年に日中平和友好条約の批准書交換のために来日した際に、鄧小平氏が、日本記者クラブでの記者の質問に対して、「この問題は、われわれと日本国との間で論争があり、釣魚島を日本は『尖閣諸島』と呼び、名前からして異なる。この問題は、しばらく置いてよいと思う。次の世代は我々より賢明で、実際的な解決法を見つけてくれるかもしれない」と返答した内容のことです。この発言は、あくまでも日本記者クラブでの質問に対しての発言であり、日本国政府は、1972年以来、一貫して中国の領有権には国際法上の有効な根拠はないと主張しており、”棚上げ”に合意したとは到底考えられません(公表されている交渉記録を探しても、尖閣諸島の名は見あたらない・・・)。しかしながら、中国政府は、日中平和友好条約の過程で、双方が”棚上げ”に同意したと主張しているのです(1990年の駐日大使に対する中国の外交副部長の談話)。

 中国の常套手段は、一方的な解釈と既成事実化ですし、仮に、日中平和友好条約の交渉裏で尖閣諸島の問題がふれられていたとしても、公式には、日本国政府はこの合意を認めていないはずです。政府は、日本国内における中国側の世論誘導に充分注意を払うべきですし、自国の領有の正当性を内外に向けて丁寧に説明すべきと思うのです。”次の世代の賢明な解決方法”が、武力占領であっては、まことに悲劇としかいいようがありません。

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