時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

日本人DNA解析の信憑性

 本日、各紙の朝刊には、総合研究大学院大学のチームによる研究成果として、日本人のDNA解析の結果が記事として掲載されました。要点は、(1)アイヌ人と沖縄人と近縁性が高いこと、(2)本土日本人は、縄文系(アイヌ人と沖縄人と共通)と弥生系の混血であること、(3)本土日本人は、アイヌ人や沖縄人よりも韓国人と近縁性が高いこと(弥生人朝鮮半島から渡来…)、なようです。しかしながら、この解析結果、信憑性は高いのでしょうか。

 (1)と(2)についは、明治以来、既に、多くの学者や研究者によって唱えられてきており、新説というわけではなく、DNAの解析によってこうした説を裏付けた、ということのようです。一方、どこか怪しさが漂うのは(3)の説です。(3)の説については、以下の点を指摘することができます。

1.関東地方の本土日本人しか対象としていないこと
 本土日本人と表現するならば、青森から鹿児島まで、全国の日本人を対象としませんと、正確な解析結果とは言えません。長州顔と薩摩顔の違いは、外国人もすぐに区別ができたとされており、本土日本人にも地方差があります。この研究では、日本人の間の多様性が無視されているのです(せめて、関東の日本人と表現すべきでは…)。

2.DNAを提供した人々の混血状態が不明であること
 DNAを提供したサンプルは、247名とされていますが、これらの人々の混血状況を明らかにしませんと、結果に偏りが生じます。仮に、近い世代において、韓国人と混血した人が含まれている場合には、データ上、(3)の結果を推論してしまうことになります。古代人の遺骨からDNAを抽出して解析しませんと(少なくとも明治以前の日本人…)、歴史的は事実は明らかにはなりません。

3.DNAの解析方法が明確ではないこと
 Y染色体のDNAに関する研究では、D2(YAP55)の分布は、アイヌ人88%、沖縄人56%、本土日本人20~40%である一方で、韓国・朝鮮では、3%という、(3)とは違う結果もあるそうです。

4.弥生人渡来ルートは複数あること
 弥生人は、海流を考えますと、中国大陸から直接に渡ってきた人々も大勢いたはずです。また、朝鮮半島も、シルクロードやステップロードがはるか西方に繋がっていますので、経由地であった可能性もあります。各紙とも、(3)を根拠に、弥生人朝鮮半島経由と決めつけている点は、どこか、かつての稲作朝鮮半島渡来説を思い起こさせます(今日では否定されている…)。

 興味深いことに、この研究をめぐる各紙の報じ方に違いもみられ、政治的な思惑も感じられます。中国の沖縄領有の主張に対する牽制かもしれませんし、あるいは、日本人の反韓感情を和らげようとする意図が隠されているのかもしれません。

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