時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

「トロイの木馬伝説」はローマ帝国史と関係がある History of the Rome is Related with the Legend of the Trojan Wooden Horse

 今日は、古代・中世史研究家の倉西裕子が記事を書かせていただきます。

 前回(10月1日付け本ブログ)は、「トロイの木馬伝説」をめぐって、ヒッタイト帝国が‘海の民’のフェニキア人によってあっけなく滅んだ理由の一つとして、「鉄製の車輪を持つ戦車、ならびに鉄製の武器や武具は塩によって腐食する」という弱点を、フェニキア人が利用したからであるという説を提起させていただきました。すなわち‘トロイの木馬’とは、馬の頭の船首を持つフェニキア人の船から発想を得た伝説であり、秘かにヒッタイト帝国の首都に入り込んだフェニキア人によって海水、もしくは塩を撒かれ、さしものヒッタイト帝国の軍事力も、無力化してしまったというものです。

 この古代における‘鉄と塩の戦い’という仮説は、‘トロイの木馬’という大仕掛けの攻城機を想定した仮説よりも、古代のロマンに欠け、読者の皆様には、ちっとも面白くないかもしれませんが、案外、世界史の流れを考える上で、その後の重要な歴史的事象のいくつかを説明するものとなるのかもしれないのです。

 それは、ローマ帝国は、ヒッタイト帝国の後身であるからです。ローマの建国伝説を扱う『アエネアス』は、ローマ人の祖であるアエネアスは、もとはトロイの王子であったと伝えています。トロイ陥落のその日に、トロイの遺民たちとともに、アエネアスは、イタリア半島に向けて出発するのです。仮に、ヒッタイト帝国の遺民たちによってローマが建国されたのであるのならば、ヒッタイト帝国滅亡の原因と経緯を、古代ローマ人たちは、記憶し、代々伝承していたかもしれません。

 このように考えますと、ローマ史、ローマ帝国史は、これまでとはまた違った側面を見せてくれるかもしれません。

(次回につづく)