時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

慰安婦高額所得否定説への疑問

 慰安婦の境遇は、流布されているような”奴隷”であったのか、と言う問題は、日本国にとりましては看過できない問題です。この点に関して、日本国内の慰安婦裁判において、慰安婦の貯金額残高が、当時としては巨額の25,846円であったことが判明したことに対して、ミャンマーでのインフレ率から高収入説を否定する見解も主張されています。

 インフレを理由とする高収入否定説とは、戦争末期にあって、ミャンマーでは、軍票の乱発によるインフレが激しく、1944年末で3年間で物価が首都ヤンゴンでは87倍となるインフレであったそうです。にも拘らず、日本政府は、1円=1ルピーの交換レートを維持しており、慰安婦の高額所得も、インフレ率を考慮すれば然したる額ではない、というものです。ここで疑問の感じることは、第一に、慰安婦への支払いが軍票であれば円建てであり、円での支払い額はインフレの影響を受けないのではないか、ということです。仮に、インフレの影響を受けたとしますと、事業者が、料金をインフレ率に比例して大幅に値上げするか、あるいは、慰安婦が、円を一端ルピーと交換し、それをまた円に交換するという操作を必要とします(闇取引となるので違法行為では?)。第二に、たとえインフレの影響があったとしても、慰安婦は、決して低賃金で働いていたわけではないことです。インフレ率を100%として計算した場合でも、この預金額はおよそ258円になりますが、当時の国民の平均所得が200円ほどですので、それでも2年半で、国民の平均所得を上回る額を貯金できたことになります(一般の世帯では無理な額…)。

 何れにいたしましても、慰安婦は、決して無報酬で強制労働を強いられたのではなく、相当の対価を得ていたことは確かなのではないでしょうか。インフレ説による慰安婦高収入否定説は、慰安婦=奴隷を証明してはいないのです。

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