時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

明治期産業革命遺産-河野談話の轍を踏まぬよう

 昨晩、ようやく「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産として登録され、地元の方々は、一先ずは、ほっと胸をなでおろしておられることでしょう。その一方で、日本国政府の陳述において”意思に反する”動員との言葉があり、河野談話の表現と類似していることから、徴用工問題の慰安婦問題化が懸念されております。

 河野談話もまた、確かに全くの虚偽ではないのですが、記述を曖昧にぼかすことで、韓国が日本糾弾に利用できる隙を与えておりました。今回の世界遺産登録に関するマスコミ報道においても、気がかりな点が見受けられます。気がかりな点とは、報道では、審議延期の理由は、韓国側が”強制労働”という言葉を使用しようとしたため、日本側が修正を要求したから、と説明されています。ところが、実際に、韓国側が自らの陳述に際してどのような言葉を使ったのか報じられておらず、日韓の間で、文言をめぐり最終的にどのような妥協が成立したのか不明なのです(英語では、日本側は、forced to workと表現したとも…)。その一方で、日本側は、「具体的には、1940年代にいくつかの施設で、意思に反して連れてこられれ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者がいたこと、第二次世界大戦中に日本政府も徴用政策を実施したことを理解できるようにする。インフォメーションセンターの設置など、犠牲者を記憶にとどめるために適切な対応を取る」と述べたとされています。おそらくこの発言内容が、日本側の”譲歩”なのでしょうが、韓国側も同意して、”強制労働”の表現を控えたのでしょうか(犠牲者と表現?)。そして、”具体的には・・・”で始まりながら、日本側の表現は、あまりにも曖昧なのです。

 河野談話の教訓からしますと、史実を正確に詳述することこそ、拡大解釈や過大な脚色の余地を生まないための有効な対策手段です。設置予定のインフォメーションセンターで情報を発信するならば、遺産の本来の意義を中心に据えるべきであり、徴用工問題についても、具体的な施設名、朝鮮半島出身者の戦時徴用工の人数、労災人数(炭鉱には事故は多い…)、期間(およそ1年)、賃金、休日…など、正確、かつ、詳細に記述すべきなのではないでしょうか。

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