時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

集団的自衛権違憲論への反論その4

 安保法案違憲論者の第4の論点は、「合憲論者は、最高裁砂川事件判決で、集団的自衛権の行使は合憲だと認められたと言う。しかし、この判決は、日本の自衛の措置として米軍駐留を認めることの合憲性を判断したものにすぎない。さらに、この判決は『憲法がいわゆる自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否かは別として』と述べるなど、自衛隊を編成して個別的自衛権を行使することの合憲性すら判断を留保しており、どう考えても、集団的自衛権の合憲性を認めたものだとは言い難い。(是々非々さまのコメントより)」というものです。

 最高裁判所違憲立法審査権の側面からの違憲論なのですが、そもそも、米軍の駐留は、その前提として、日米安全保障条約の締結があります。このため、米軍駐留を合憲と認めたことは、同時に、日米安保条約が合憲であると判断したことを意味します。砂川事件判決は1959年12月16日のことであり、判決当時の安保条約は旧条約ですが、この旧条約の前文には、「平和条約は、日本国が主権国として集団的安全保障取極めを締結する権利を有することを容認し、さらに、国際連合憲章は、全ての国が個別的及び集団的自衛権固有の権利を有することを承認している。それらの権利の行使として、日本国は、その防衛のための前提的措置として、日本国に対する武力攻撃を阻止するため日本国内及びその付近にアメリカがその軍隊を維持することを希望する」と明記されております。つまり、最高裁判所は、この条約で示されている当時の日本国政府憲法解釈を追認していると理解されるのです。1960年の改正後の安保条約の前文では、「両国が国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛権固有の権利を有していることを確認し…」と表現が変化しておりますが、少なくとも、砂川事件判決にあっては、安保条約において集団的自衛権が言及されている以上、その容認の根拠とはなります。もっとも、旧安保条約の集団的自衛権は、アメリカのみ行使が許されているとする主張もあるかもしれませんが(段落があるものの、文章の流れからは、権利行使の主体は日本国と読むのが自然…)、新条約では”両国が…有している”と表現が変更されており、1960年時の政府解釈は、より明確に日本国の集団的自衛権保持を認めています。1981年の内閣法制局の解釈まで保有と行使が一体化して概念されていましたので、表現の変更は、集団的自衛権行使の否定を意味しないと考えられます。また、砂川事件判決は、統治行為論が採用された判決としても知られており、自衛隊についての留保は、高度に政治的な判断については司法は立ち入らないとする統治行為論によって説明することもできます。

 以上、違憲論者の4つの主たる論拠に反論を試みました。違憲論が世論の趨勢であり、憲法学者の大多数が違憲論の立場にあると報じられていましたので、雨やあられの反論が寄せられると身構えていたのですが、何故か、違憲論者からの反論のコメントは皆無です。この沈黙も、訝しく思うのです。

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