時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

在外被爆者医療費-最高裁判決への疑問

 昨日、最高裁判所の小法廷において、在外被爆者全員に対して医療費の支給を認める判決が下されました。しかしながら、この判決には、幾つかの疑問があります。

 第一に、被爆者援護法の性格とは、一体、どのようなものなのでしょうか。原爆の被害は、アメリカの原爆投下が原因で生じておりますが、日本国は、サンフランシスコ講和条約で賠償請求権を放棄しております。また、日本国政府は、原爆被害を含めて、自国民に対する戦争被害を賠償してはおりません。となりますと、被爆者援護法は、日本国政府、否、費用を負担する日本国民が、特別に原爆被害者に対して救済の手を差し伸べるという性格を持ちます。他の空襲などによる日本人被害者に対しては、一切、救済がない一方で、最高裁判所が、日本国籍を有しない在外被爆者に対してまで救済を法的に義務付けるとなりますと、バランスを欠いております。
 第二に、被爆者支援法が人道的な観点から在外被爆者に域外適用するにしても、国民の合意を得る必要がありますので、最高裁判所ではなく、国会での審議と法改正を経るべきです。日本国政府に法的義務が無く、予算措置を要する訴訟の場合には、裁判所が適用の是非を判断するのではなく、立法措置に任せるとすべきです(司法問題ではなく政治問題…)。
 第三に、救済措置に予算措置を要する以上、その見積もりを明らかにすべきです。新聞各社とも、医療費については詳述を避けていますが、4200人全員に対して生涯にわたって医療費が全額支払われるとしますと、相当の予算を要することは確かです。超単位に上る可能性もあるのですから(肝炎訴訟の前例…)、日本国民の負担をも考慮すべきです。

 このような疑問もありますので、被爆者援護法については、国会を舞台に、在外被爆者に対してどの程度の救済を行うべきなのか、その根拠を含めて、議論すべきではないでしょうか。

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