時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

ユネスコ事務局長から読み解く”南京大虐殺”記憶遺産登録

 中国の歴史問題提起が、国家戦略の一環であることが分かっていながら、ユネスコが、”南京大虐殺”を記憶遺産に登録する方針を固めたことは、まことに残念なことです。遂にユネスコも、中国によって”私物化”されてしまったようです。

 ところで、この登録決定の背景には、一体、何があるのでしょうか。新聞情報によりますと、記憶遺産の登録手続きでは、事務局長の権限が強く、審査は、事務局長の選んだ専門家の手に委ねられるそうです。国内の有識者会議での人選でも指摘されるように、議題の結論は、得てして人選の段階できまるものです。となりますと、ユネスコ事務局長とは、どのような人物なのか、このポスト対して自ずと関心が向きます。そこで、早速、ネット情報などを調べてみたのですが、現職の事務局長は、ブルガリア出身のイリナ・ボコヴァ氏であり、ユネスコ初の女性局長のようなのです。経歴を見ますと、出身校はモスクワ国際大学であり、現在、次期国連事務総長の候補者としてその名が挙げられています。このことから、登録の背景として、幾つかの点が推測されます。第一に、思想面からしますと、ボコヴァ事務局長は、歴史の改竄を是とする共産主義の影響を受けているとするものです。常識からしますと、日本国政府から、資料の信憑性について抗議を受ければ、”記憶遺産に虚偽があってはならない”とする事務局長の責任感から、史料に対して慎重な検証を行うはずです。歴史捏造に対する感覚がマヒしているとしますと、中国の要求を受け入れる素地があることとなります。また、次期国連総長選挙を睨んで、常任理事国である中国の支持を取り付けるために、記憶遺産登録を取引材料とした可能性も否定はできません。ボコヴァ氏には、女性初の国連事務総長としての期待があるそうですが、今回の一件を見る限りには、国連事務総長に要求されている中立・公平性の行動規範を備えているとも思えません。

 日本国政府は、ユネスコへの拠出金の見直しで対抗しようとしているとも報じらておりますが、ボコヴァ事務局長の真の目的が国連事務総長のポストにあるとしますと、この策の効果は限られているかもしれません(困るのはユネスコ職員のみ…)。むしろ、ユネスコを含む国連組織の制度的腐敗や職務規範の問題として提起した方が、日本国の主張に賛同する国が現れるのではないかと思うのです。

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