時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

オバマ大統領の広島訪問-投下した側の心の痛み

 昨日のオバマ大統領の広島訪問は、原爆投下国の現職大統領が初めて被爆地を訪れた歴史的瞬間となりました。日本国側が、謝罪を求めず、アメリカ側の懸念を払拭したことが、大統領訪問を後押ししたとも伝わります。

 日本国民の間でも、原爆投下について、アメリカに対して謝罪を要求する声はそれ程強くはありません。謝罪は強要するものではありませんし、謝罪要求が、必ずしも和解を促すわけではないことを、よく理解しているからです。そして、もう一つ、この件に関しては、考えるところがあります。それは、原爆を投下した側の心の痛みです。確かに、日本国は、原爆投下の被害国であり、多くの人々が被爆の苦しみの中で命を落としております。広島平和記念資料館の展示品の数々は、その惨状を今日に伝えております。そしてこの40万人にも上るとされる犠牲(2015年原爆戦没者名簿で凡そ46万人)の厳粛なる事実は、同時に、アメリカにとりましても、心の傷となって疼いていると推察されるのです。たとえ相手を憎き敵国と見なした戦時中の出来事であれ、女性や子供を含む無辜の市民の犠牲に対して、微塵たりとも良心の呵責を感じないというはずはありません。原爆を投下された側も、投下した側も、共に原爆投下は癒しがたい傷なのです。

 今回のオバマ大統領の広島訪問に接し、積年の蟠りが解けたかのように歓迎されていた被爆者の方々の姿には、まことに救われる思いがします。そして、こうした赦しと相互の思いやりの心こそ、アメリカ側の心の痛みをも和らげて行くのではないかと思うのです。

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