時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

領土問題をめぐるダブルスタンダードの中国共産党政権

 今日は、古代・中世史研究家の倉西裕子が、記事を書かせていただきます。中国共産党政権は、現在、スプラトリー諸島周辺の公海の領海化や島の武装化など、明らかに国際法に違反する行為を行っているのみならず、権謀術策を駆使して、世界各地で、形を変え、品を変えて、領土拡大、勢力拡大問題を起こしております(例えば、ギリシャにおける港湾の租借地・軍港化などなど)。こうした状況は、「赤いドラゴン中国共産党政権説」が成り立つ可能性を補なっている、と言うことができるでしょう。
 
マイケル・ピルズベリー氏が、その著書『China 2049』におきまして、中国共産党が、「中華人民共和国」という国を中国大陸に建てた1949年から数えて100年後の2049年に、中国共産党は、その巧妙なる世界支配の計画を完成させる予定でいると、指摘しておられる点には、頷かれる人も多いのではないでしょうか。
 
中国共産党による権謀術策の一つは、巧妙なる‘論理のすり替え’や‘ダブルスタンダード’であるようです。前回の本ブログにては、「もとは中国領であった」とする中国共産党の主張が妄言・妄想である根拠の第一点として、多種多様な民族によって、中国大陸に建国されてきた個々別々の国々を、すべて「中国」という名を冠した現実には存在しない幻の1つの国家として扱っていることにあることを指摘させていただきました。今日は、第二点について述べる予定でしたが、第一点につきまして、中国共産党側が、反論してくるのではないか、と想定される点がございましたので、第一点につきまして、補足しておきたいと思います。
 
想定されてくる中国共産党政権側の反論とは、「中国とは、中原に覇を唱えた国、中国語を話す人々の国、中国文化を継承している国である」という反論です。古来、中国大陸には、洛陽などのある地域を「中原」と称して、ここに建てられた王朝は、みな「中国」であるという思想が確かにありました。この思想に依りますと、鮮卑族の隋・唐王朝、モンゴル人の元王朝女真族清王朝など、中原を支配していた王朝は、みな「中国」であることになります。そして、これらの歴代王朝の領域であったと中国共産党が認識している地域をめぐって、「もとは中国領であった」とする中国共産党政権の主張も、この思想から来ている、と言うことができるのです。すなわち、「中原に覇を唱えた国が中国である」とする、国際的には通用しない古い中華思想を、中国共産党政権は、現代に持ち込んでいるのです。
 
ちなみに、仮に、中国大陸では、この思想の通りに支配者が認識されていたのでしたならば、中国大陸には、「侵略される」という言葉は存在しないはずです。中原を支配した国は、みな「中国」という国として認識されることになるのですから。例えば、女真族は、言葉も文字も風習も、すべてにおいて、万里の長城以南の人々とは、異なる民族でした。17世紀から20世紀にかけて、中国人のトレードマークであるとされた辮髪も、女真族の固有の髪型であり、中原に侵略してきた女真族が、その支配地域の人々に女真族の髪型を強制した結果なのです。
 
このように考えますと、万里の長城以南の人々と女真族との違いと、万里の長城以南の人々と日本民族などの他の民族との違いとの間には、大差は無いことになります。にもかかわらず、中国共産党政権は、古い中華思想を基準として清王朝は「中国」であって、19世紀以降の西洋列強や日本については、現在の国際法を基準として「侵略者」である、というダブルスタンダードを用いているのです。
 
今日まで、伊勢志摩におきまして、G7が開催されておりますが、国際法違反となる海洋進出問題を中心として、中国共産党政権の問題につきましても議論されたことは、よろこばしい限りでしょう。

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(続く)