時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

日本の子供達は孫子の兵法を学ぶべきなのか?-日本人の中国人化

 本日、新聞の広告欄に、ある書籍の宣伝が掲載されているのが目に入りました。斎藤孝氏による『こども孫子の兵法』なのですが、日本の子供達は、孫子の兵法に学ぶべきなのでしょうか。

 内容の一部が紹介されておりましたが、「まずは相手のことより自分のこと。負けないための準備をしっかりよう」で始まります。この冒頭の教えからして、実のところ、日本国の道徳教育の根幹を根底から覆しております。世論調査などを実施しますと、日本の親が子供に望むのは、第一におもいやりであり、相手のことを慮るやさしい心です。それは、日本人の美徳でもあり、中国人でさえ、災害に際して助け合う日本人の姿を見て、見習うべきとする声があるそうです。ところが、この書物では、紀元前6世紀の春秋時代、即ち、中国大陸における弱肉強食の時代を背景として書かれた指南書を日本の子供達に実践させようとしているのです。

 確かに、『孫子』には、戦略に関わる普遍性が見られますが、それは、あくまでも戦時においてのことなのです。古代より、人類の知恵として、戦時と平時とは、峻別しなければならないとされております。さらに、孫子の時代から2500年も経た今日では、人間の精神性にも違いがあり、現在の人々の方が、倫理や道徳の面においてよりヒューマニティがあります。

 日本の子供達が、この孫子の兵法に従って生きるとしますと、未来の日本国の社会は、戦国時代の戦時における野蛮な精神性に支配されかねないのです。しかも、子供時代とは、基本的には自己中心に物事を考えがちですので、それを抑制するセルフ・コントロールを学ぶのではなく、助長しているとなりますと、日本国の子供達の世界は、勝ち負けが全ての殺伐とした光景に一変することでしょう。

 時代背景を教えた上で、過去に書かれた書物として『孫子』を客観的に学ぶことにはそれなりに意味がありますし、また、”自分が優先で、他人を蹴落としても勝ちたがる人がいる”という現実を子供達が知るための教材にはなりますが、現代という時代に、中国の春秋戦国時代の権謀術数をよしとする生き方を蘇せることには問題があり、人類の倫理的発展の方向性に逆行しているとも言えます。もしかしますと、幼少期から日本人の生き方や道徳心を変え、精神面において中国人化を図る企みが隠されているのでしょうか。

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