時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

英EU離脱-防衛的ナショナリズムなのでは?

 EUからの離脱を問う国民投票では、過半数を超える国民が離脱を選択しました。残留予測が強かっただけに、離脱決定後も、離脱派に対する批判が止みません。

 離脱派に対する主要な批判点は、感情に流された過激なナショナリズムが生んだ悲劇というものです。しかしながら、今般のイギリスに見られるナショナリズムは、他国の侵略や征服を目指すといった意味での攻撃的ナショナリズムではなく、極めて防御的です。移民・難民の増加による社会の急激な変化への警戒感や政治的な独立性を失う危機感が、防衛的なナショナリズムの素地となったのです。防御的なナショナリズムを危険視し、あってはならないものとして排除しますと、国家の独立や防衛も危うくなり、国民の枠組みも融解します。当然に、国民国家なるものも消えてしまうことでしょう。共産主義では国家の消滅が是認されておりますが、一般の人々にとりましては、祖国喪失を意味しかねないのです。

 イギリスのEUからの離脱については、マスコミ等は、離脱派を過激な極右として描きたいようですが、現実には、50%以上が離脱に投票しているのですから、むしろ、一般的なイギリス国民の心情として理解すべきです。ピーターラビットの世界を思わせる古き良きイギリスの風景は、イギリス人の時代遅れの郷愁として捨てさるべきものなのでしょうか、それとも、将来の世代に伝えてゆくべきなのでしょうか…。後者を選択したイギリス人が、批判されるほど過激な思想の持ち主とは、到底、思えないのです。

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