時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

イギリスのEU離脱-経済優先が理性的ならば奴隷制も理性的

 先月23日にイギリスで実施された国民投票では、イギリス国民は、EUからの離脱を選択しました。この判断に対して、感情に任せた非理性的な判断とする酷評がありますが、経済的利益を優先した判断が、必ずしも理性的な判断とも言えないように思えます。
 
 何故ならば、仮に、あらゆる判断において経済的利益を優先すべきであるならば、奴隷制をもプラスに評価しなければならなくなるからです。過去の奴隷制も現在の移民も、海外から安価な労働力を国内に招き入れるという面において共通しています。奴隷制が合法であった時代に建築された豪華絢爛な建築物などを見上げますと、誰もが思わず息を呑みますが、果たして、経済的な繁栄をもたらしたことを理由として、奴隷制を理性的な制度として評価する人は、今日、存在しているのでしょうか。現実を直視しますと、奴隷制は、アメリカでもしばしば表面化するように、今日に至るまで社会に深刻な分裂をもたらし、奴隷を使用した側にも、奴隷とされた側にも、癒し難い傷を残しています。この失敗は、人を“商品”、あるいは、“労働力”として扱ったことに起因しており、移民もまた、経済的メリットのみで理解し、人としての多面性を無視しますと、取り返しのつかない事態を招きかねません。
 
 経済的利益のみを基準とした移民肯定論は、むしろ、人としての感情に欠けていることにおいて冷酷であり、不可逆的な変化を被る社会に対しても無責任であるのかもしれません。イギリスのEU離脱は、今一度、将来の人類社会の在り方について深く考える機会とすべきなのではないかと思うのです。

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