時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

移民政策―イノベーション信仰の怪しさ

 先月23日に実施されたEU離脱の是非を問うイギリスの国民投票では、移民問題が焦点ともなりました。年間30万人もの移民が押し寄せる現状を背景に、イギリス国民は、EUからの離脱を選択するのです。

 こうした中、ドイツのミュンヘンでも、イラン系の人物による銃乱射で子供を含む9人が亡くなるという痛ましい事件が発生しました。テロの恐怖や治安の悪化は、今や各国共通の問題となっておりますが、その一方で、移民肯定論者は、移民の経済的効用を熱心に訴えています。その有力な根拠とされるのが、多様性イノベーション促進論です。この説は、異なる背景や思考回路を持った人々が混ざり合えば、化学反応のように自然にイノベーションが生まれるというものです。しかしながら、この説は、正しいのでしょうか。おそらく、ヘーゲルの”弁証法”をモデルとしているのでしょうが、イノベーションとは、これまでに存在していなかった技術や思考がもたらす革新的な転換を意味しますので、その前提条件として、多様性や異質性の混合を設定する必要はないはずです。否、如何なる既存のものから外れたところから誕生するのが、イノベーションの本義でもあります。しかも、イノベーションとは、既存のものが行き詰った果てに起きるブレーク・スルーですので、長期的なスパンにおける出来事であり、移民を大量に受け入れたからいって、必然的に生まれるものでもありません。

 となりますと、イノベーションのためには移民が必要不可欠とする説は、一種の信仰に過ぎないのかもしれません。むしろ、移民政策によって必然的に起きるのは社会的変化です(テロ、治安の悪化、社会的摩擦…)。両者は区別されるべきであり、移民問題を議論するならば、不可避となる社会的変化こそ、議論の中心に据えるべきではないかと思うのです。

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