時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

NPT体制の命運をかけた闘い

現在、核拡散防止の基本的な枠組みとなっているNPT体制とは、NPT条約が調印された1968年当時、核保有国であった国には核の保有を認める一方で、他の諸国には核の保有を放棄させるという関係の上に成り立っています。一見この関係は、不平等のようでもありますが、核保有国は、その代償として、核拡散防止の管理義務を負っています。核の下の平和は、核保有国と非核保有国双方の条約遵守に依拠しているのです。

 ところが、近年に至って、みなが条約を順守して核を持たない状態にあることを幸いに、暴力主義の国が、核兵器を持とうとするようになりました。まわりの国が非核保有国ばかりならば、実際に使用しなくとも、核は、脅しや圧力のための極めて有効な手段となるからです。喩えてみますと、全ての人から武器を取り上げた後で、ひとりだけ拳銃を持った人が入ってきたら、その人に力で抵抗することは、大変難しくなるようなものです。

 このことは、条約上は、”警察”の役割を果たす核保有国が、この暴力主義国家の核を放棄させない限り、周辺諸国は、常に安全保障上の危機に曝されることを意味しています。もし、暴力主義国家の核放棄が失敗に終わるとしますと、NPT条約の存在意義は失われてしまうのです。現在進行している北朝鮮の核放棄へのプロセスは、まさに、NPT体制の存続をかけた闘いなのです。