時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

反戦と母性の論理

 戦争反対運動において、最も強く女性層に訴えるのは、”あなたの息子さんを戦地に送らせてはなりません”というスローガンです。手塩にかけて育てた自分の子供を、戦地で失ってもよいと思う母親はおりません。ですから、この訴えは、母性本能を刺激し、女性層を反戦運動へと招くのです。

 しかしながら、この母性の論理には、利己的なニュアンスが含まれる場合があります。それは、母性愛とは、”すべての子供たち”ではなく、”自分の子供だけ”となる傾向にあるからです。実際に他国から攻撃を受けて自国が戦地となった場合には、誰かが、命がけで自国および自国民を守る使命を果たさなくてはなりません。また、非道な犯罪国家との間に戦争が発生した場合にも、どこかの国が、自己犠牲払いながら戦うことになります。これは、正義と秩序を守ろうとする父性の論理が働くからです。一方、母性の論理は、こうした場合にはひたすら傍観者であれ、と勧めているのです。

 ”母は強し”といいますが、反戦運動における母性の無条件の礼賛は、リスクと犠牲を他者に転嫁することになりかねませんので、よくよく考えてみなければならないことのように思われるのです。