時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

言葉足らずな憲法第9条

 日本国憲法の第9条の文言の解釈をめぐり、常々、不毛の議論に陥る原因の一つには、この条文が言葉足らずである、ということにもあるようです。

 日本国憲法の制定時は、戦後直後(1946年)ということもあって、各国の思惑や理想が入り乱れた状況にありました。日本国憲法の内包する曖昧さは、当時の国際情勢の不安定性を映し出している、とも言えるのです。このことは、同じく枢軸国側にあったドイツ憲法やイタリア憲法と比較してみると分かります。1948年に制定されたイタリア憲法では、その第11条で、

 「イタリアは他の人民の自由を侵害する手段および国際紛争を解決する手段として戦争を否認する・・・」

 と述べています。この表現は、他国の支配という限定化も見られますが、日本国憲法と近い表現と言えましょう。しかしながら、その一方で、第78条では、

 「両議院は戦争状態を決定し、政府に必要な権限を付与する」

 と記しており、戦争状態が発生することを否定していません。さらに、第87条では、

「大統領は軍隊の指揮権を有し、法律により設けられる最高国防会議を主宰し、両議員の議決を経て戦争状態を宣言する」

 とあり、軍隊の指揮権(統帥権)の所在をも明らかにしています。

 また、1949年に制定されたドイツ憲法でも、第26条では

 「諸国民の平和共存を妨げ、特に侵略戦争の遂行を準備するのに適し、かつ、そのような意図をもってなされる行為は、違憲である。・・・」

 と規定し、さらに、第115b条で、

 「防衛上の緊急事態の公布とともに、軍隊に対する命令権および司令権は、連邦総理大臣に移行する。」

 と明記しています。

 これらの憲法と比較しますと、日本国憲法の第9条が、充分な現実への対応力を欠いていることを、よく理解することができるのです。