時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

裁判員制度導入の前に法学の教科化を

 2009年から導入予定の裁判員制度では、抽選で選ばれた裁判員が、事実の認定のみならず(事実認定のみですと陪審員制度)、法律の適用をも判断することになります。考えてみますと、これまで、国民は、義務教育課程にあっても、法律についての纏まった知識を学ぶ機会がありませんでした。

 法律や裁判制度に関する知識ないままで、裁判員となることには、やはり不安があります。第一に、事実認定には法律の知識を要しませんが、法律に即して罪に相応の刑罰を決める法の適用には、それなりの基礎知識が必要です。第二に、法の適用の段階で、裁判員の裁量の範囲が広がる可能性があります。この結果、裁判員の個人的な意見が強く反映されることになれば、同一の罪に対する裁判の結果にばらつきが生じてしまうことになりましょう(法の一律適用の崩壊)。第三に、裁判員と裁判官とに歴然とした知識の差があれば、どうしても、裁判官ペースの審理が行われることになります。これでは、国民は、裁判に立ち会うだけの立場となってしまいます。

 裁判員制度にあっては、裁判員となることは国民の義務となるのですから、義務教育過程に法学を組み込む必要がありましょう(社会科の一環として・・・)。特に、対象となる刑法に関する知識は、制度の運営には不可欠となります。裁判員制度の導入には、根強い反対もありますから、延期も視野に入れて、もう一度、教育をも含めて、司法システム全体を見直すことも検討すべきではないか、と思うのです。