時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

国民の生きた証を捨てないで

 今月7日に、公文書館推進議員懇談会のメンバーの方が、公文書管理についての緊急提言を行ったと言います(本日日経夕刊)。日本国は、公文書管理の制度作りが遅れており、日本国が歩んできた足跡を記録として後世に残す上で、重要な取り組みと言えましょう。

 こうした努力の甲斐あって、国のレベルでの記録保存が進む一方で、国民の生きた証しとも言える戸籍については、除籍後80年を超えたものについては、保存義務がなくなるというのです。わずか80年ですので、日本国民の平均年齢が80歳を越している現状に照らして考えてみますと、自分が生まれた時に生きていた人々の記録すら、消滅してしまうことになります。こうした書類は、一度消去しますと、永遠に失われてしまうことを意味します。文書のデータ化が技術的に進んでいますので、保存場所確保の困難が理由なはずはなく、これもまた、国民の”のっぺらぼう化政策”の一つなのかもしれません。

 戸籍の閲覧は、子孫による確認や公的理由、あるいは、学術・研究上の必要性に基づく申請制とし、厳格化を図れば、それほど大きな問題とはならないはずです。それよりも、国民が自らのアイデンティティーを喪失し、この世に生きていた証を公的に消されてしまう方が、余程、恐ろしいことのように思うのです。