時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

宗教的非寛容と国内分裂

 政治おいて政教分離の原則が必要となるもう一つの理由は、宗教的な対立が国内分裂をもたらすからです。これは、政治と一体化した宗教あるいは宗派が、他宗教や他宗派を認めない場合に容易に発生します。

 特に一神教を奉じてきた諸国では、宗教対立や宗派対立が、激しい内乱に至った歴史を持ちます(多神教である我が国でも、古代にあっては物部戦争が、近世にあってはキリスト教の排斥がありました・・・)。今日でも、中東では、同じイスラム教でありながら、シーア派スンニ派が激しい武力衝突を繰り広げています。特定の宗教・宗派が政治と結びつき、かつ、宗教的に非寛容である場合には、政治権力が異教徒や他宗派の排斥に用いられ、国民の間に不公平と分裂をもたらすことになるのです。

 こうした状態が続きますと、特定の宗教や宗派に属する人のみが政治的な特権を得ることになり、その他の人々は、不利益を被ることになります。やがて、この不公平感は、宗教の本来の意義を忘れ、国内平和を乱す権力闘争となりましょう。そうして、国民の多くが、宗教的な迫害の中で犠牲になるのです。これでは、国の発展は望めませし、国民は、不安の中で生きざるを得ません。

 政教分離の原則が確立していませんと、法の前の平等さえ怪しくなり、また、妥協なき戦いに人々を巻き込むことになります。政教分離とは、国家権力が、すべての国民に対して公平かつ公正に働くための基盤でもあるのです。