時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

『君が代』拒否と民主主義

 教育現場では、国歌斉唱に際して、教師が起立をしなかったり、あるいは、ピアノ伴奏を拒否するといった行動が見られると言います。こうした教師たちの姿を、権力に抗って自らの信念を貫く勇気ある行為として描くドキュメンタリーなども作成されているそうですが、果たして、この行為、本当に称賛に値するのでしょうか。

 現行の国旗と国歌は、法律によって制定されております(「国旗及び国歌に関する法律」:平成11年施行)。もし、これらに反対したいならば、新たな国旗や国歌を制定するための働きかけをする方が、道理にかなっていると思うのです。実際に、イギリスでは、現在のユニオンジャックには、ウェールズの象徴が描かれていない、ということを理由に、デザインの変更が議論されています。教育の場で、行動規範を示すべき教師たちが、”自らの信念のためには法律を無視しても良い”、という態度をとったとしますと、これは、民主主義のルールや遵法精神を育むべき時期にある生徒たちに悪影響を与えるかもしれません。信念を以って反対を言うのであれば、それは、教育現場ではなく、個人の政治的意見として世論に訴えるべきなのではないでしょうか。民主主義が制度化された国家では、如何なるテーマも自由に議論できるはずです。

 国民の中には、『君が代』に親しみを感じている人々も多くおることを考えますと、実力行使で自らの意見を通そうとする態度は、何か、理性的というよりも、民主主義を忘れた暴力的な行為に思えてならないのです。