時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

アイヌ人の先住民認定はよく考えて

 最近に至って、政府は、2007年9月17日に国連で採択された「先住民の権利宣言」に応じ、北海道に住むアイヌ人の方々を、この先住民として認定する方針を示したそうです。洞爺湖サミットを意識してのことらしいのですが、この認定が、アイヌの方々、および、日本国にとって望ましいのかどうかについては、より真剣な議論と検討を要するのではないか、と思うのです。

 第一に考えるべきことは、アイヌ人の人々が、この認定を本心から望んでいるのか、どうか、ということです。認定に先立って、アイヌの大多数の方々が、先住民として認定されたいのか、アイヌの方々に自らの意思表示をする機会を与え、承認を得るべきではないか、と思うのです。現状でも、アイヌの伝統や文化を保護することはできます。一部の活動家の要望であったり、政府による一方的な認定でありますと、後々、レッテル張りという禍根を残すことになるかもしれません。

 第二に、アイヌ人の認定が難しいことも、問題として指摘されている点です。古代から、東北にあって蝦夷と呼ばれた人々が、アイヌ系であったとする説もあり、日本国の場合、全く別の民族が到来して、先住民を追い出したり、支配下に置いたような場合とは、いささか事情が異なっているのです。

 第三に、「先住民の権利宣言」は、文化・社会的な権利のみならず、資源や土地に関する権利をも、先住民に認めています。この資源や土地に関する権利が、どの程度なのかは曖昧なのですが、国家の主権と競合する可能性があります。このため、将来的には、資源や土地をめぐる国内の分裂要因になりかねないのです。

 以上のような問題点が挙げられるのですが、現時点において、アイヌ人を先住民族として認定することは、拙速に過ぎるのではないでしょうか。そもそも、この「先住民の権利宣言」に思慮不足があるのですが、こうした問題は、少なくとも数年をかけて、先住民の権利の具体的な内容や将来的な影響について十分に検討を加えた末に、結論を出すべきと思うのです。

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