時事随想抄

歴史家の視点から国際情勢・時事問題などについて語るブログ

政府の株買い取り制度のリスク

 政府は、追加経済対策として、株価を維持するための株買い取り制度を新設するようです。しかしながら、この制度には、泥沼に陥るリスクもあると思うのです。

(1)買取株式の選別問題
 素案によりますと、この制度は、首相直轄であるものの、具体的な決定は、関係閣僚や日銀総裁で構成される「危機対応委員会」によって行われるとしています。もし、買取対象が、この「危機対応委員会」に一任されるとしますと、市場ではなく、政治が恣意的に株価を決定することになります。買取対象の選別をめぐって利権争いが起きる可能性がありますし、政治的な判断によって、救われる企業と見放される企業が発生することにもなります(コネや斡旋が横行?)。

(2)政府介入と投機対策の問題
 政府が証券市場に介入するに際しは、一定の基準を設けなくてはならないはずです。EUのEMSで起きた事態を思い起こしますと、下落下限に到達しそうな株式に対して、政府の買い支えを見越した投機筋からの売り浴びせが行われる可能性もあります。こうした事態が発生しますと、狙いとは逆に、株式市場を混乱させ、企業の経営を不安定化する要因ともなりかねません。

(3)危機の認定と介入価格の決定

 株価の下落防止と言っても、どの程度の下落を政府介入を要するレベルと設定するかという問題は、簡単そうで難しい問題です。株価の下落率は一律ではありませんし、産業や企業ごとに経営を取り巻く事情も違っています。また、不良債権の買い取り問題と同様に、政府の買い取り価格によっては制度が機能しなくなることもあります。

(4)介入規模の問題
 政府は、最大で50兆円規模の買取を予定しているそうですが、もし、全額を投入しても買い支えができない場合には、底なし沼に陥ってしまいます(そもそも、大暴落には無力ですし、国債の発行で資金を調達しながらの株の買い支えは無理なのでは・・・)。

(5)情報管理の問題
 政府の買い支え銘柄が事前に漏れることがあれば、インサイダー問題に発展する可能性もあります。「危機対応委員会」の情報管理が徹底していませんと、不正利得の発生源となってしまいます。

 以上に述べたように、政府の株式買い取り制度には幾つかの問題点があるようです。政府の市場介入については、国民の税負担も考えねばならず、より慎重であるべきと思うのです。

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